『火の鳥 』太陽編 -- 2009

手塚治虫(てづか おさむ 60歳 本名:手塚 治)氏
(1928年11月3日 - 1989年2月9日 )
日本の漫画家、アニメーター、医学博士。

『火の鳥』 太陽編
1986年1月号から1988年2月号
ここに、地上を支配する〔〕が登場する。
舞台は2009年

--1988年11月、
上海でのアニメーションフェスティバルからの帰国と同時に体調が悪化
その数ヵ月後、 『火の鳥』未完のまま亡くなった。
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野口文雄氏 『手塚治虫の奇妙な資料』 以下抜粋 

第12部 太陽編

天智天皇2年 663年

朝鮮半島の百済(くだら)は 倭国(わこく 日本)と結び、

新羅(しらぎ)、唐の連合軍と戦い、白村江に大敗し、

百済王族の1人 ハリマは、
捕らわれて顔の皮をはがれた上に

狼の首をかぶせられて 草原に打ち捨てられるが、

以来、彼は眠るたびに 不思議な夢を見ることになる。


2009年、日本は火の鳥をご神体とする””一族に支配され、

これに従わぬ者は 地下に押し込められ、

そこから”光”と抗争する”影(シャドー)”の組織が生まれるが、

その一員であるスグルも、ある時から不思議な夢を見始める。


彼らは、時を隔てて 

互い互いに 互いの世界をのぞき見る 一つの生命体だった。

かくて物語は、どちらかが眠りにつくたびに

遥かなる時を越えて 変転する。
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ハイライト的な場面が、単行本ではすっかり描き変えられ、

光満ちるだけで 火の鳥は姿を現さず、何も語らず

たった2ページに収められ、再版では さらに なくなる。

〔再現〕

火の 鳥!? ほんとに火の鳥なのか
あ--あんた 何だ 神なんですか?

--そんなものではありません。
私は 生命(いのち)の源を 預かっているだけです。
誰かが 心の底から 生命を求めれば
私は どこにでも 現れます。

たしかに 鳥がしゃべっている! こいつはテレパシーって奴か...
生命を 預かっているって?
そ そうだ おれ 誓った。 彼女に生命がほしい。
もう おそいんだ。でも できるなら 生き返らせてくれ。

--あなたは今 その娘を愛していますね。心から。

*ああ 言ったとも。おれ 彼女を愛しているんだ!!
彼女を助けてくれりゃあ おれ どんな代償でも 払うよ!

--その言葉にめんじて 助けてあげましょう。
でも そのかわり 
あなた達は もし 愛を失った時
2人とも 死ぬのです。それが代償です。 いいですね?

彼女が生きているかぎり、おれは彼女を愛するとも!!誓うよ。

--わかりました いま 助けてあげます

なんてこった--- 血 消えている!
生き返った ウォーッ きずがないぞーッ
奇跡だ!!

あんた すばらしい人-- いや 鳥だ!
でも--- そんなあなたが どうして”光”みたいな教団を許してるんですか?

なぜ おれたちシャドーを苦しめるんです?

--わかっています。
私は 人間に 一つのチャンスをあげたかった。

でも おろかな人間は そのチャンスをゆがめてしまいました。

私は 失望しています。


答えてください

今から10年前 金星へ旅立った惑星探査船が

火の鳥に出会ったそうです。それは---あなたなんですか?

--ええ 私

私は 長い長いあいだ

人間の”目ざめ”を待っていました。

人間が 宇宙へと飛び立ったとき

その”目ざめ”のチャンスが来たと思いました。

それは--
人間が地球を遠くから眺めて

自分たちが どんなに地球の上の生命を おろそかにしてきたか
はじめて 悟る
-- と信じたのです。

だから 思い切って その船の中へ入って 人間たちに会いました。

『美しいでしょう それにもまして もろくて すぐにもこわれそうでしょう。

もし あなたがた人間に叡智(えいち)があるなら

あの星を大切に使うことです。地球も--生きているのですから。

地球へ戻ったら このことを 世界中の人間たちに伝えてください。』

みんなは驚いて
私の話すことを よく 聞いてくれました。


私は よくわかってくれたと 信じていました。

ところが

裏切られたのです。彼らは それを広めるという名目で

宗教を つくってしまったのです。

そして 奴らは 火の鳥そっくりのご神体をすえた。

自分たちの富を増やすために 海底資源工場を設けて 

信者を働かせたり

教義に従わない者は 

片っ端からシャドーとして地下に追放してしまった!

これはみんな もとはといえば あなたの責任なんだ。

そうだ あなたのせいだ。

あなたが 宇宙飛行士に ご宣託(せんたく)なんか与えるから

あいつら のぼせ上がって こんなハメになったんだ。

さあ!!! なんとかしてくれっ 

おれたちシャドーに 地上を返してくれ!!

あんたなら できるだろう?

もとの世の中に戻すくらい...

おれたちは

こんな 宗教なんか 抹殺(まっさつ)したいんだ


わかるだろう?



--それは あなたがた人間が 解決しなさい。

どうして!? なんにも力をかしてくれないのか?なぜ?

--それはね 

宗教などというものは 人間がつくったものだからです。

それを つくるのも 消すのも 人間の心しだいです。

ア...ア 消えるなっ  まだ 話したいんだ。

    

火の鳥 公式ガイドブック 手塚プロダクション 以下抜粋

宗教組織・光を率いる一族が、地上を支配する2009年。

光以外の人々は 地下世界に追放されて「シャドー」と呼ばれていた。


反・光ゲリラ組織の殺し屋・坂東スグル

組織を指導する「おやじ」は、スグルに
光のご神体 火の鳥を盗み出すよう指令。

厳重な警備を突破して 地上に出たスグルは、
女兵士のヨドミから 服を奪って兵士に化け、潜伏。

大友技師は、 惑星探査船に侵入した火の鳥を
地球に持ち帰って 英雄となり (1999年)
火の鳥を崇める光の教祖に納まったが、
スグルは おやじからの伝言で、
大友が おやじの甥であることを教えられる。

巨大な総本山ビルに潜入するスグル。

だが、大金庫の中の火の鳥はニセ物で、

スグルは捕らわれて 
光一族が日本海溝の海底に作った海底収容所に送られ
光の信者に洗脳するためのヘルメットをかぶせられる。
狼の頭の形をしたヘルメットが
犬上とスグルの関係を匂わせている


ヨドミ=マリモ

スグルの侵入を防げず 収容所に送られていたヨドミと再会し、
惹かれあいつつも 決闘で刺殺するスグル*

生き返ったヨドミに、スグルは火の鳥の血を飲んだためと確信。
その奇跡を利用して 看守らを煽動し、地上に脱出した2人だったが
光の殺し屋・リカオンの攻撃により 離れ離れに....
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スグル=犬上(ハリマ)

663年、倭国と百済の連合軍は 朝鮮半島の白村江で
唐と新羅の連合軍に敗北。

百済国王の一族のハリマを捕らえた唐軍は
彼の顔の皮をはがし、狼の首の皮をかぶせてしまう。

ハリマを助けたのは、医者で仙人のおばばだった。
倭国軍追撃の唐軍が さらに迫り、
ハリマは 部下に裏切られた敗軍の将・阿倍比羅夫(あべのひらふ)を
助けて、おばばと三人で 倭国にわたる。

漂着した浜に 狼たちが現れ、
狼の皮によって 霊界を感じる力を得ていたハリマに、
彼らは「狗族」(くぞく)と名乗る。

狗族は 倭人を守護してきたが、
仏教の神々が 10年前に渡来。

その尖兵(せんぺい)の四天王により、
狗族が 人里から追われたことを ハリマに告げる。

瀕死の長老の娘・マリモを、おばばの薬で救うハリマ。

阿倍将軍の推挙で 領地と「犬上」の姓を得たハリマに、
狼の姿となって付き従うマリモ。

4年後

都を近江に移した中大兄皇子(なかのおおえのみこ)は
天皇に即位--- 天智天皇

仏教を推す天智天皇は、
産土神(うぶすながみ)擁護の弟・大海人皇子と 対立していた。


産土神とは 土地の守護神
いわゆる鎮守(ちんじゅ)の神様。
これを 日本固有の神である国つ神(くにつかみ)とも解釈するなら、
「古事記」ではサルタヒコ(猿田彦)も その1人とされている。
「太陽編」では 狗族や妖怪も含めて より広くとらえられている。


各地で相次ぐ異変をきっかけに、天智天皇は 
再び 弟と衝突。祈祷により、弟を仏門に入れよとのお告げを得る。

大海人皇子は 天皇の裏をかいて出家。
皇位を譲った大友皇子に、仏教帰依を拒んだ犬上の免罪を頼む。

「実は 数年前に帰化して 彦根の邑(むら)にすむ犬上という者
仏法に帰依(きえ)しないとかのかどで
役人といさかいを起こし 人を殺(あや)めたのです---
私に免じて、どうか 大赦(たいしゃ)してやっていただきたい。」

罪は不問となった犬上
だが、炎隆寺7人衆から 仏敵 として襲われ
重傷を負った犬上を マリモが救出する。

犬上の里で繰り広げられる、仏族と妖怪との決戦

マリモとおばばの 献身的な介護により 命を取り留めた犬上。

やがて都から 使役を差し出せとの勅命が下り、
それを拒んだ犬上の里に、
壹伎史韓国(いきのふびとからくに)率いる軍勢が押し寄せる。

犬上の前に姿を現した天狗の長は、
仏族の 霊界への侵略が始まったことを告げ、
この里に布陣したいと頼むのだった。

だが、仏族の力は圧倒的で、
苦戦する狗族ら 妖怪たちを見かねた犬上は、
大友皇子に直訴すべく 韓国に投降。

1人、近江に連行される。

大友皇子に 信仰の自由を聞き入れられず、
死刑を待つばかりの犬上だったが
十市媛(とおちのひめのみこ)に助けられ、
近江からの脱出に 成功する。

大海人皇子
犬上が携えた十市媛の密書を読み、
都の 酷い処遇に大海人皇子が 決起。
「いかにも!!
近江は われわれに 食糧を絶えさせ
餓死させる魂胆だ。

しかも、時を見て刺客をはなち 
おれを暗殺した上 わぬしたちを 一網打尽にする腹と見た。
もはや これまでだ!」

仏族の妨害を受ける皇子一行は、
太陽信仰の巨石群が立つ 聖地に出くわし、

そこに1人残された犬上は、岩山の上で 火の鳥と遭遇

宗教を操る権力と戦うことこそ、自分の使命 と悟る。

大海人皇子も 火の鳥に助けられ、
従者たちに 日の神を崇めることを宣言。

再び現れた炎隆寺7人衆を倒した犬上は、
近江軍が 犬上里に陣取ると聞き、
駆けつける途中で、近江軍と決起軍の戦いに巻き込まれる。

決起軍に敗れた大友皇子は、韓国に自分の首を斬らせ、
大海人皇子は、天皇に即位。

里帰りした犬上は 宮仕えを断り、
おばばと共に 旅に出る。

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ヨドミに生まれ変わっていたマリモは
光一族に捕らえられ、
火の鳥の血を飲んだか 確認するため射殺されるが、
灰になっても 狼の姿で 復活。

死の世界の入り口(霊界)で待っていたスグルの元に、
狼となったヨドミが駆けつけ、二人が抱き合った時、


スグルとヨドミは

かつて 自分たちがそれぞれ 犬上とマリモという人生を生き、
強く愛し合っていたこと、
1300年の間に 何度も生まれ変わっていたことを思い出す。

今度こそ 自由になれた犬上とマリモは、
誰にも圧迫されない狗族の世界へ 旅立って行った。


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イオマンテ(魂を あの世へ送る) 怨霊鎮めの祭り